kyokucho/宮田健の気分はブルースカイ:第6回 フィルムメーカー「ディズニー」のライバル(その2)

気分はブルースカイ

こんにちは、kyokuchoです。

2003年7月末、長編アニメーション業界に衝撃が走りました。長編アニメ史上10年の長きにわたり興行成績でトップに君臨し続けた「ライオン・キング」を、わずか9週間という異例なスピードで越える作品が登場したのです。この10年間では先に紹介した「シュレック」、ディズニーでは「ターザン」などが公開されていますが、それらも達成できなかった記録を残したのは、オーストラリアの海の中の出来事をCGで巧みに表現した作品「Finding Nemo」。制作したのは、ディズニーにとって最高のパートナーであり、最大のライバルでもあるピクサーです。

ピクサーの始祖はスター・ウォーズの特殊効果を担当したあのILMで、過去TFT iMacのモチーフにもなった?と言われた短編映画「Luxo Jr.」や、初のフルCG長編アニメーション作品となった名作「トイ・ストーリー」などを制作したクリエータ集団。というより、マックメムをご覧の方であればあのスティーブ・ジョブス氏がCEOをつとめる会社といった方が通りがいいかもしれません。

ピクサー作品がすばらしいという要素は多々ありますが、個人的に感じることはピクサーこそが初期のディズニー作品を正当に継承しているのではないかと思います。初期のディズニー作品、特にウォルト・ディズニーが直接手がけていた「白雪姫」や「メリー・ポピンズ」、またミッキーをはじめとするキャラクターの登場する短編映画に共通していること、それはストーリーのすばらしさです。ウォルトは「白雪姫」で、音も絵もほぼ完璧に仕上がっている小人たちの食事シーケンスを「物語にはこのシーンは不要だ」という理由だけでいともあっさりと破棄してしまうことをやってのけました(このシーンは発売中のDVDで見られます)。この結果、映画には無駄なシーンが一つもない、という洗練された作品になります。この一見当たり前のことはいまやディズニーですらできなくなったことです。これはピクサーが誇るストーリーメーカー、ジョン・ラセターの功績だと思います。

そして特筆すべきは、ピクサーは新技術にどん欲で、かつそれをストーリーにうまく組み込むことが非常にうまいのです。たとえば、彼らは彼ら自身が持つCG制作用ソフト(ピクサーの本業は映画制作ではないんです)のデモ目的で短編映画をつくります。先の「Luxo Jr.」は光源のテストですし、バグズ・ライフに併映された「Geri’s Game」は人間の皮膚を表現するための作品でした(このGeriじいさんはトイ・ストーリー2で修理屋として登場してましたね)。これら短編ですらストーリーを重視しているのは本当に頭が下がります。しかもCGを決して売りにせず、ツールとしてのみ利用していることも特筆に値します。興味深いのは「モンスターズ・インク」のオープニング。ここでは昔ながらの2Dアニメーションスタイルを使用しており、かつ作風は「101匹わんちゃん」のころのディズニーアニメのオープニングそのもので非常に驚いたことがあります。それもそのはず、このオープニングには当時のディズニースタジオのアニメータがアイデア面で参加しているとのことでした。最新技術と昔の心意気の融合に思わず拍手するワンシーンでした(これも、DVDに収録されているのでお持ちの方はチェックを)。

日本ではディズニー映画と取られがちな作品群ですが、正確にはディズニーは配給を担当しており、あくまで「ピクサー映画」ととらえた方が今後はよくなりそうです。というのも、現在このピクサーはディズニーとの契約満了を間近に迎え、CEOのスティーブ・ジョブス氏が次なるパートナーを探し始めている、という噂がまことしやかに流れているからです。ジョブス氏の正確を考えると、すんなりと契約を継続するような人ではないのはむしろアップルをよく知る皆様の方がよくおわかりかと思いますが、「このまま(モトローラの)PPCチップの性能が上がらなければインテルのチップとか使っちゃうよ?」というようなブラフをかけるように、今噂に上がっているのは先のドリームワークスとの契約をちらつかせている状態です。

現状では前回紹介したブラッド・バード監督による2004年公開の「The Incredibles」、そしてジョン・ラセター監督がトイ・ストーリー2に続き制作している「The Cars」にてディズニーとの契約が満了する予定です。現在、ディズニーの長編アニメ映画は低迷の一途で、皮肉なことに先に発表されたディズニー社の業績は「Finding Nemoの好調による」増収増益でした。ピクサーとの契約が今後のディズニーを左右してしまう状況を考えると、むしろピクサーは独立して真のライバルとなってくれた方が長編アニメ市場が盛り上がるのではないか、と思います。


では!

(kyokucho/宮田 健)

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