遠藤です。みなさんこんにちは。
☆雑木林☆
人間の手が入った、管理された林を里山林といいます。一般には雑木林などといわれており、落葉樹と呼ばれる葉が冬に落ちてしまう樹種からなる林をいいます。普通私たちが森とか林を想像したときにはこうした雑木林を指すことが多いのではないでしょうか?
一年中、葉が茂っている針葉樹や常緑樹の林と比べて、雑木林はハイキングに向いています。
なぜって、常緑樹は一般的に葉が厚く、光をあまり通さないのでこうした木の下は1年中暗く、じめじめしていて、あまり気持ちが良くないのに対して、雑木林は葉が薄く、光を比較的通すので歩いていても気持ちが良いものです。
特に、晩秋から春の雑木林は葉が落ちているので空も見えるし、落ち葉をさくさくと踏んで歩くのは大変楽しいものです。
☆雑木林の1年☆
雑木林の初夏、木々の芽が吹き、葉が展開して、夏には葉がしっかりしてきて一生懸命光合成をし、花を咲かせ、秋には実をつけ、そして、晩秋には葉を落とします。
冬は植物にとってはお休みの季節。すべての植物の活動はいったん中断されます。
雑木林の1年はこんな風にすぎてゆきます。
☆雑木林の下草たち☆
光を少し通すといっても雑木林の下に生える草(したくさ:下草といいいます)にとってみれば、光が少ないのでその分他の草との競争は少ないものの、草原で光を100%浴びて育つのに比べれば厳しい環境だと言うことができます。
雑木林の下草として生きてゆくには
・光が少なくても生きてゆける工夫
・光のある時期に急いで生きる工夫
のどちらかの工夫をする必要があります。
ひとつめの工夫は、簡単に想像することができますが、2番目の「光のある時期に急いで生きる工夫」とはどんな工夫でしょうか?
☆雑木林の環境と春の妖精☆
雑木林の中の光量と植物が生きてゆくのに必要な光量、温度条件を模式化するとこのようになります。
オレンジの線が雑木林の中の光量を示します。
雑木林の中の光の量は冬が最高ですが、冬は下草たちにとっても厳しい環境、そして夏は温度は十分なものの光が足りません。
下草の植物が必要な光量、温度条件が満たされるのは緑の三角で示した部分、すなわち初春から初夏へのとても短い期間です。普通の植物では生育できないくらい短い時間で、芽を出し、葉をつけ、花を咲かせ、受粉をすませ、そして、実をつける。こんな「光のある時期に急いで生きる工夫」ができる植物しか雑木林の下では生きてゆくことができません。
このように早春に真っ先に現れ、とても短い期間で消えてゆく植物を春の先駆け、春の前兆という意味で「春の妖精」とか、「スプリングエフェメラル」(Spring Ephemeral:春のはかなきもの)などと呼びます。
☆カタクリ☆
そんなスプリングエフェメラルの代表的な植物に「カタクリ」があります。
昔は、この球根でカタクリ粉をとったほど、広く分布していたのですが、今は見ることすらまれとなってしまった植物です。
この写真はカタクリの自生地に掲げてあった生育の様子をグラフにしたものです。左から種子から始まって1年目、2年目、3年目・・・となり、葉が2枚となる7年目になってようやく花をつけることができるのだそうです。
カタクリは次の花をつけるのになぜそんなにかかってしまうのでしょうか?
これまで説明してきたように、スプリングエフェメラルが生育することができる時間は1年でも大変短い期間です。その間に光合成をして養分を球根にためるのですが、1年では花をつけるくらいの養分がたまらないため、花をつける力がたまるまでの間何年も葉をつけるだけで終わってしまうのです。
ということは、今、私たちが見ているカタクリの花の何倍もの球根が地下で花を咲かせるために待機していることになります。
カタクリはユリ科の植物なのですが、他のユリ科と違うところがあります。花を見てみると
雄しべが、まっすぐに付いていることがわかると思います。
一方、その他のユリは
このように、雄しべがTの形をしています。雄しべがTの形をしていると風で簡単に雄しべが揺れるので花粉が飛びやすくなっています。
Tの形の雄しべはまっすぐに付いた雄しべよりも進化的な形質と考えられ、その他の研究からもカタクリはユリ科の中でも原始的な植物であるといわれています。
スプリングエフェメラルな植物たちは氷河時代の遺存的な種であり、比較的原始的な姿のまま現在まで残っているものだと言われていますが、この例からもそんなことが言えるのかもしれません。
そして、雑木林の木々が芽吹く頃、春の妖精は跡形もなく去り、雑木林には夏がやってくるのです。