<第六話>清算!在庫のたたき売り

Mac Worldが終わり、新たな問題が浮上

 前回、東京のマックワールドで在庫処分をしようと努力したものの、結果は惨敗。ほとんど処理出来ずじまいに終わった話しをしたが、今回はその続きである。 

 東京のマックワールドが終わり、売れ残った在庫について新たな問題が発生した。

 実はマックワールドで販売した製品は代理店のものではなく、代理店加賀電子にNewerが依託していたものだった。通常、Newerの製品を日本に輸入する場合、代理店が製品を購入してから輸入する。しかしこの1400用と2400用のCPUカードは代理店が市場での需要がないため購入するつもりがなかった。そこでNewerは製品が倉庫に置いておくよりも、どうせ売れないのであれば店頭にあるべきだという判断のもと、代理店に製品を依託したのであった。依託というのは平たく言えば製品を貸し出して、売れた分代金を支払ってもらうということだ。富山の薬売りのようなものである。代理店K社として売れない製品を購入するとリスクになるが、依託であれば懐は痛まない。そこで、Newerの依託の申し出をすんなり引き受けてくれたのだ。 

 しかしマックワールド東京で依託分を完売出来なかったため、ある問題が起こったのである。 

 実はこの1400用と2400用のCPUカードを日本に輸出する際、Newerの処理は依託ではなく、会計部門は見かけ上、加賀電子に販売したことにしていたのである。で、これはなぜかというと、その当時Newerは銀行から融資を受けており、融資額は月の売り上げの特定の割合(約80%程度)を受けられることになっており、販売額を増やしたい背景があったのである。マックワールド東京への1400用と2400用のCPUカード合計800本の見かけ上の販売額はおよそ50万ドル(約5千万円)にもなったのである。そのため一時的にNewerは銀行から40万ドル以上の融資を受けることができたのである。 

銀行からの督促が厳しくなるものの...

 しかし、あくまで融資は融資。銀行がなぜ販売額を元に融資をするかというと、翌月の支払いがあることを期待してのことである。しかし、東京のマックワールドでほとんど製品が売れず、翌月になっても加賀電子からの支払いが無い。そのため銀行からはすぐに加賀電子に支払いをさせるようにNewerにに督促してきたのである。銀行としては当然の督促である。ところが加賀電子としては購入していないものに、支払いは出来ないのだった。 

 会計部門としては格安な価格を設定したので、製品はマックワールドで完売となり、その支払いがすぐに入って来る皮算用であったのだ。しかし実際は完売できず、マックや自社の製品動向に疎い会計部門とすれば完売できなかったのは”猪川の力不足”と決めつけて、さっさと売り切るように言ってきたのである。それ以降会計担当者は私の顔をみれば常に、”支払いまだ?支払いまだ?”と言ってくる始末。こっちもいらいらしているので、”だから、販売できないものに支払いはできないでしょ!”と言い返すことになり、だんだん嫌悪な関係になっていったのだ。もっともこの会計担当者も銀行からもずっと支払いを督促されっぱなしだったであろうから、気持ちはよくわかったのではあるのだが。 

代理店に製品を販売できない事態に...

 そして悪いことはさらに悪い方向に向かっていく。この支払いに絡んで別の問題が発生したのである。それは1400用と2400用のCPUカードの支払いが終わらないと、加賀電子にこれ以上製品を販売出来ないということになってしまったのだ。 

 Newerは代理店の規模や実績にあわせて、代理店が購入できる製品の限度額を設定していた。この当時日本のもう1つの代理店である丸紅は日本有数の総合商社であるため、支払いが滞ることは考えられず、限度額は100万ドル(約1億円)という設定になっていた。もし丸紅が望めばNewerは100万ドルどころか、200万ドルでも300万ドルでも製品を販売したことだろう。で、加賀電子の場合も同様に大きな商社であるため、当初限度額を50万ドル(約5千万円)に設定していたのである。販売実績がよければすぐに100万ドルぐらいになったはずである。 

 そして、この1400用、2400用のCPUカードの販売は実体が依託だからこの限度額とは別口にするという約束を、会計部門と約束していたのである。しかし、銀行から見ればそれは販売であり、販売であるために製品の購入限度額に達してしまったのである。銀行からすれば、50万ドルの支払いが終わるまではそれ以上製品を販売するなと言って来たのである。Newerはその指示に従うしかなかった。 

 しかしこの判断は最悪なものであった。1400用、2400用のCPUカードの支払いがもらえなくて、他の製品を販売できればそこから利益を得ることが出来るのである。その手段を自ら放棄してしまったのだ。Newerにとっては新しい代理店契約は全く意味が無くなりつつあった。 

 しかし加賀電子はそんな実状を全く知らず、新しい製品がどんどん入荷することを期待していたのである。マックワールド東京での出展を通して全国的にNewer製品の取り扱い開始を宣伝していたために、どんどん注文が集まりつつあったのだ。 

 Newerは加賀電子が売れない製品の販売を手伝ってくれたことを認識しつつも、銀行からの指示で他の製品をの出荷を中断しなくくてはならず、まさに恩を仇で返すような行為を行っていた。しかもNewerはその事実を正直に言わずに、時間を稼いでいたのである。しかし注文の納期が迫ってくれば加賀電子の担当者から製品の出荷状況の問い合わせが来る。そこで私は”使用しているパーツの一部に問題があって検査に時間がかかっている”とか、”互換性に問題があるので対応している”などなど、時間がかかりそうなことを言ってとりあえず相手に納得してもらうことにしていたが、うそがそうそう持つはずもない。 

 そのため、1400用、2400用のCPUカードを迅速に処理するように私はNewerのセールスの副社長ジェフ・ヘデレスキーと日々打ち合わせを行ったのだ。プロモーションをする、広告を打つ、ユーザーのオフ会で販売する、リベートをだす、などの案を猪川が出したものの、どれも決めてがなく、かつ時間がかかり過ぎて採用が見送られた。マックワールドで売れない物が、今更どこで売れるのか... 

万策尽きて、たたき売りへ

 そしてついに万策尽き、最後の手段”たたき売り”となった。加賀電子と丸紅が購入出来る額、つまり全くの言い値で買い取ってもらうことにしたのだ。1400用、2400用のCPUカードも機種に関係なく1本2万円で販売したのである。完全にNewerの製造原価を割ってしまい、赤字が確定したのである。 

 ただ、これにより加賀電子から支払いを受け取ることが出来、加賀電子に対して他の製品を出荷出来る体制となったのがせめてもの救いであった。 

 しかし、ほっとするのもつかの間、この支払い額についてもNewer内部で一悶着起きることになるのだ。 

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