遠藤のモバイルガーデン:シーボルトの21世紀展 おしば標本の今日的意義

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遠藤です。みなさんこんにちは

今回は植物の標本についてお話ししたいと思います。

植物で使う標本はいくつかの種類がありますが、主に使われる標本には「液浸標本」と「おしば標本」があります。

液浸標本はホルマリンや、アルコールに漬けて保存する方法で、植物の立体構造を保持するという利点がある一方、標本によって大きさが異なり、また、ホルマリンやアルコールは揮発性が高いので長期間の保存には向きません、更に保存にはガラス瓶を使うため安定して保存することが難しいのです。

一方おしば標本は植物を「おしば」にして乾燥させ、保存する方法です。みなさんも教科書や辞書のあいだに葉を挟んで「おしば」を作ったことがあると思いますが、そのプロフェッショナル版です。

辞書のあいだに挟む押し葉と所が違うかというと・・・

一つ目に違うところは、押しは標本は必ず「台紙」に貼られるということです。
台紙にはることで、標本を壊さずに持ち運びやすく、しまいやすくすることができます。

二つ目は大きさです。プロの使うおしば標本は新聞の半分の大きさになっています。

なぜ新聞の半分なのかというと、おしばを作るときに新聞に挟んで乾燥させるからです。

おもしろいのは標本の大きさが国によって異なることです。例えばソ連時代のロシアの標本は日本の標本棚に入らないくらい大きい物でした、それはソ連の新聞「プラウダ」の紙面が大きかったことに由来しています。

三つ目は標本のデータを記入していることです。
標本を研究に使うために最低限必要な情報は、採集地と採集日時の情報です。

・・・ところで、みなさんは正式な「おしば標本」を見たことがありますか?
 

おしば標本

こんな感じで、台紙に押し葉になった植物が貼られており、植物名、採集者、採集地点、採集日時が書かれた紙片(ラベル)が貼られています。

この標本いつ作られたと思いますか?
正解は1823年。180年も前に採集された標本なのです。

標本は博物館の中でも特に標本を専門に保存する博物館に保存されます。

博物館行き、なんて言われるときは「大事だったけれど、もう使われないもの」というイメージが強いですが、博物館に保存される植物標本は180年前のものであっても今でも最新の研究の対象となります。

その役割の1つは、学名の出発点としての標本の役割です。

先ほど見たTypeと書かれた標本がその植物の学名の元になった標本ですべての標本の中でも特別な意味を持つ標本なのです。
 

おしば標本

先に示した写真にも赤いマークがしてありますが
 

おしば標本

ここにも書いてありますね。

この標本はクリですが、クリという名前(学名)はこの標本を元にして決まっているのです。

もしも、将来クリがクリと、クリによく似ているもののクリとは違う種との2つの種が混ざっていることがわかったとき、2つに別れた集団のどちらに先ほどのタイプ標本が含まれるかで、どちらが「クリ」を名乗れるかが決まってくるのです。

2つ目はDNAバンクとしての役割です。

植物のDNAを使った研究は近年様々な研究に使われます。数年前から乾燥した標本でもDNAを採ることが簡単にできるようになってきました。そこで、絶滅してしまってもう、標本しか残っていない種の標本からのDNAの採取をして、その植物の優れた性質を現在生きている植物に導入する方法などの研究がなされています。

3つ目は環境を測定する資料としての役割です。

標本の収蔵庫を見ると、同じ種の標本がたくさんあります。同じ種なのになんでたくさんあるのか?と思う方も多いようですが、種の変異を知ったり、その種の分布を知るというそもそもの必要性だけではなく、同じ地域で何百年も採り続けられた標本の葉の裏の汚れから大気汚染の歴史を調べるというような学際的な研究も行われています。

おしば標本は長期保存のために温度や湿度を厳重に管理されたおしば標本庫(ハーバリウム)に収納されており、一般のひとが見ることは普通はできません。

普段は見ることのできないおしば標本ですが、今月4日から東京大学総合研究博物館で行われる「シーボルトの21世紀展」でたくさんのシーボルト自身が採集した貴重なおしば標本が展示されます。

シーボルトの21世紀展カタログ

シーボルトというとみなさんは何を思い出すでしょうか?シーボルトと言えば日本に西洋の医学やその他文化を、ヨーロッパには日本文化を紹介した人物として広く知られています。

植物がお好きな方なら彼の日本での妻、楠本滝を記念して付けたアジサイの学名(Hydrangea otakusa:「おたきさん」から。しかし後の研究で現在はこの学名は使用されいない)を付けた人ととして記憶に残っている方もいらっしゃると思います。
 

アジサイの標本

これが、シーボルトの採集した「アジサイ」の標本です。彼はこれらの標本を元にして、「フロラヤポニカ(日本植物誌)」を作りました。

フロラヤポニカのアジサイのページを見てみましょう。
 

アジサイの絵

この図譜はすべて手彩色で1冊1冊画家が色を付けてカラーの図版にしています。

シーボルトは植物だけを研究したのではなく日本の民俗や。。。
 

日本の民俗

日本の動物も。。。
 

ニホンシカ
カニ

このように詳細に調べて、図譜を出版していたのです。

今までお見せした写真は、すべて「シーボルトの21世紀展」の展示の資料です。

博物館学的にも世界初となる標本の垂直展示など、大学博物館でなければできない斬新な展示方法の冒険をしています。
 

シーボルト展展示

駆け足の紹介となってしまいましたが、そもそも、なぜシーボルトは日本の植物に特に興味を持つようになったのか、その秘密も今回の展示で明らかにされています。
 
 
 

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