kyokucho/宮田健の気分はブルースカイ:第59回 祈りの映画「ノートルダムの鐘」

気分はブルースカイ

こんにちは、kyokuchoです。

まずは祝!通販日記復活。クリスチャンとしての猪川さんの視点から書かれる内容は、私のような信仰という習慣が薄い日本人にとっては非常に新鮮です(かつ、しっかりMacと絡めている点がスゴイ・・・)。私自身も兄弟でただ一人キリスト教系の保育園に通っていたせいか、三つ子の魂百までではないですが考え方の根底にはイエスの教えというのが根付いているような気がします。今回はそんなことに関係するディズニー作品について。

ディズニーの長編アニメーション作品では宗教をベースとしたお話はタブーとされていました。これはカッツェンバーグのドリームワークスが「ディズニーでのタブーを全部破ってやろう」と取り上げた題材が、あの十戒をベースにした「プリンス・オブ・エジプト」を作ったことでもうかがい知ることが出来ます(さらにディズニーのタブーをことごとく破って大ヒットしたのが「シュレック」であることは言うまでもありません)。しかし、ディズニーはある作品で非常に宗教色の強い題材について触れたものがあります。ヴィクトル・ユーゴー原作の「ノートルダムの鐘」です。

この作品、ノートルダム寺院を舞台にして繰り広げられるストーリーで、日本では興行収入的にはパッとしませんでした。しかし完成度は非常に高く、まだまだディズニーが誇るアーティストの技が残っている時代の作品です。たとえば、この映画のオープニングシーン。ディズニーの長編は印象的なオープニングが多いのですが、ノートルダムの鐘のオープニングはその真骨頂とも言うべき内容です。雲の上からの遠景に続き、ノートルダム寺院の姿をとらえ、そして街へ降りて1台の屋台にズームアップ。ここにはディズニーの伝統となるマルチプレーン・カメラ(多段層の台に置かれたセルを立体的に撮影し、遠近感を表現できるカメラ)風に描かれていて、今回の映画の主題が7分弱の間に語られます。このときのメインテーマとなる曲が本当にすばらしい。ディズニーのタイトルロゴから流れる曲と、ノートルダム寺院の鐘の音。そしてこの作品の狂言回しとして登場するクロパンの話と同調して流れる曲にいつの間にか中世のヨーロッパにいるかのような気分になります。

そして、注目すべきは「God Help The Outcasts」(邦題:ゴッド・ヘルプ)の流れる、この映画の中でももっとも印象に残るシーン。異端児扱いされているヒロインのジプシー、エスメラルダが、ノートルダム寺院の美しさに神を感じるという歌です。この映画の中では、ジプシーは差別の対象。その彼女がノートルダム寺院の中で歌いあげるこの曲、このシーンを超えるものは無いと言っても過言ではありません。ステンドグラスから差し込む光にたたずむエスメラルダを映す、この曲のラストシーンには神が宿っているのではないかと思うほど。それ以外にも、ディズニーアニメーションでの陰の主役とも言える、炎や影を描き込むエフェクト・アニメーションも非常にすばらしく、揺らめくろうそくの炎の間を通るヒロインの姿は圧巻です。それらにより、シーン全体の印象は計算し尽くされた絵、そして最高の音楽が融合したディズニー全盛期の作品を彷彿とさせる内容でとても印象に残ります。

さらにこのシーンは、私たちにあるメッセージを投げかけます。このシーンは人々から疎まれている存在であるジプシーとして登場するヒロイン、エスメラルダのほかに、祈りを捧げる市民が多数登場するのですが、市民達は口々に「私に名声を」「私に反映を」「私に愛を」「もっと欲しいのです」という祈りを神に捧げています。どこにでもあるような祈りだ、と最初は思いました。対してエスメラルダは、「Outcastである自分の声など神様には届かないかもしれないし、私はあなたに話しかけてはいけない存在なのかもしれない。私は何とかやっていけます、でも、他のジプシーは私よりもひどい扱いを受けている。彼らを助けてください」という祈りを捧げています。これを最初に見たときに、なんて印象的な対比のさせ方だろうと思いました。この作品自体のテーマは冒頭のシーンでも説明されているのですが「一体何が人間なのか、何がモンスターなのか?」という問いかけをここでも投げかけているような気がします。虐げる側の祈りと、虐げられる側の祈り。神様はどちらの祈りも聞き入れるのか?

この作品、その後のシーンでも主人公カジモド、そして判事のフロローがともにエスメラルダのことを想う曲「Heaven’s Light/Hell Fire」というこれまた対比が印象的なシークェンスもあり、特にフロローのシーンは聖母マリアに祈る歌であるにも関わらず、あまりの恐ろしさにびっくりします(ディズニーのヴィランズ(悪役)の中でもこのフロローが醸し出す雰囲気は、ヴィランズ中のヴィランズであるマレフィセントに通じるものがあります。彼は生身の人間なのに!)。総じてこの作品はほぼ完全に子供の層を切り捨ててしまった大人向けの作品で、ディズニー長編の中では明らかに異質な光を放っています。それだけに、今までにない魅力を持った作品でもあります。

今までなかなかこの作品は見る機会が少なかったのではないかと思います(というより、たいして興味のない作品なのでは・・・)。幸い、この作品はまもなくDVDが廉価版として発売されますので、皆様もぜひ、一度見てみてください。

では!

(kyokucho/宮田 健)

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