伊藤計劃の世界観にもうメロメロ。

ずーっと昔、Appleが描いた未来にぞくぞくしたのだが、現在は伊藤計劃という作家の世界観にもうメロメロ。

彼は作品中で近未来を提示しているのだが、現代に住んでいる自分が全くの情報弱者であるかのように打ちのめしてくれるところが凄い。

”ハーモニー”という作品の中の主人公の女の子とその友達の女の子との会話だが、

「昔はね、ドアの外に誰がいるか知る方法がほとんどなかったんだ。ちっちゃなレンズか小窓をつけるのがせいぜい。今みたいに家の住人にフィンガープレートで個人情報を開示する方法がなかったんだよ。そもそも五十年前には、個人情報を常に開示するという習慣そのものがなかったんだから。いまは来訪者がドアのプレートに触れれば拡現(オーグ)なりそこらへんの壁に表示するなりで、どこのどんな人間が来たかはすぐにわかるけど、昔はそうするための仕組みも習慣もなかった。だからドアをゴンゴンと叩いたの...(中略)そ、自分が来たことを家の住人に知らせなきゃならなかったのよ。ノック、っていう言葉、知ってる?扉をゴンゴン叩くこと。家の中の人はそのゴンゴンを聴いて、誰ですか、って大声で外の人間に叫んで、外にいるほうもいるほうで、自分は何処何処の誰です、って大声を出さなきゃならなかった。」

それから名刺についての会話では

「そもそも個人情報を表示しておく習慣も手段もなかったんだよ。いまは拡現(オーグ)があるからみんなに自分のことを常に知らせておくことが出来るけど、昔は物理的な制約があったんだ。」「でも個人情報を表示しておかないとみんなに白い目で見られるよ。なにか素性の知らない人だらけで、みんな気持ち悪くなかったのかな。考えられないな。」「昔は個人情報はむしろ人に知らせないものだったんだよ。公共の場所で隣に誰が座っているかなんて気にしなかったんだ。名刺っていうのは、そんな社会で限定された個人情報を誰かに知らせなきゃいけないときに、手渡しという手段に限定することで、無差別に情報が拡散するのを防いでいたんだ」(中略)「わたしは拡現で人の頭の右上に飛び出してくるプロフなんかよりもこっちのほうがかわいくて品があると思うの。」

自分の理解が正しいければ、伊藤計劃の描く未来には、ゴーグルのようなディスプレーはなく、特殊な目薬を点眼することで薬品が網膜の神経に刺激を与えて、常にあらゆる情報を裸眼で見ることが出来る世界を提示している。ちょうどターミネーターが見ているような視界を人が得ている。その世界では相手の個人情報はセカイカメラのように拡張現実でポップアップして見えるというわけ。もちろん設定によってこのポップアップをオフにすることも出来るらしい。

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