kyokucho/宮田健の気分はブルースカイ:第20回 アニメーションはCGに置き換えられるか

気分はブルースカイ

こんにちは、kyokuchoです。

アメリカで大ヒットしたピクサー作品「ファインディング・ニモ」がとうとうDVD化されました。日本公開よりも先に発売となってしまったので早速見てみたら、これがびっくりするくらいにきれいな映像。同じように海の底を表現した10年以上前のディズニー作品「リトル・マーメイド」も相当のものでしたが、違う角度から海を表現したこの作品も歴史に残ること間違い無しだと思います。さて、同じ舞台を「手書きのアニメーション」で表現したのと、「リアルな3DCG」で表現したのでは、どちらの方が上なのでしょうか?

先日ニュースサイトを見ていたら、「アニメーションは実写に ──日本のアニメは、3Dに移行するのか」という記事が目にはいりました 。タイトルの通り、アニメーションは3DCGに移行してしまうのか、という懸念についての記事です。この中には、日本のディズニースタジオが先日閉鎖を発表したお話や、「ポカホンタス」の制作などで中心的な存在であったゴールドバーグ氏が、ディズニーがCG至上主義に移りつつあり、手書きによるアニメーションを軽視しはじめたことに対し抗議する意味合いで同社を退職したという衝撃的な内容が含まれています。

ディズニーがCGを利用し始めたのは、1987年の「オリビアちゃんの大冒険」、ラストシーンの時計台の歯車をCGで描いたのが最初になります(←以前「カリオストロの城」によく似たシーンと書いた部分です)。その後、「美女と野獣」の華麗なダンスシーン、「アラジン」の洞窟脱出シーンなどを経て、「ライオン・キング」のスタンピードシーンや「ノートルダムの鐘」におけるモブ・シーンの群衆の表現など、次第に「背景の3DCG化」から「キャラクターの動作シミュレーションを含む3DCG化」を行ってきました。前者と後者の違いは、前者が三次元空間の表現にCGを利用しているだけと言うことに対し、後者は1つのモデルを作成し、たとえばぶつかりそうになったときの動作をシミュレーションで行うことにより、自然な群衆の動きを「たった一体のモデルだけ」で作ってしまうというものです。

冒頭に書いた「ファインディング・ニモ」のDVDのメイキングに、なかなか興味深いお話がありました。主人公のマーリンとニモが住むイソギンチャクのシミュレーションです。ピクサーのアニメータのアプローチは、いかにして海の底の表現を数式に変換し、自然なシミュレーションにするかということが命題の一つのようです。一度イソギンチャクが海の水の流れに従って揺らめく姿を数式化してしまえば、あとは魚たちがどんなに複雑に動こうが、イソギンチャクは数式に従ってシミュレーションされるだけです。また、海の水の表現についても、単に光を屈折させるだけではなく、水に漂う粒子をシミュレーションすることで、より自然な表現を行っています。

さて、10年以上前の「リトル・マーメイド」ではどういうアプローチで表現していたかというと、ディズニーは元々キャラクター担当や背景担当のアニメータ以外に、炎の燃えさかる様子や水の流れや水のはね方「だけ」を専門に担当する、特殊効果のアニメータが存在します。彼らの仕事はほぼすべてのディズニー作品で見ることができ、たとえばリトル・マーメイドでの海の底の様子や、美女と野獣にでてくる燭台、ルミエールの炎なども彼らの仕事です。また非常に印象的なのは「ターザン」のスタッフロールでの滝の様子、これは本当に芸術的でした。そして、ディズニーのアニメータはこれを1秒間に24枚の絵として表現します。

これらを比べると、ピクサーのような3DCGでの表現は「いかにしてリアルにするか」ということになり、かたやディズニーのような古典的なアプローチは「エッセンスだけを取り出し、それをどう表現するか」ではないかと思います。前者が詩であるとすれば、後者は俳句です。実際、どちらの方がコストがかかるのかというと、間違いなく後者のアプローチとなります。先ほどのイソギンチャクのシミュレーションをみると、こんなのを手書きでやっていたら大変なことになるというのは素人が見ていてもわかります。ただ、やはり見ていて心が休まるのは、これは個人の趣味かもしれませんが、手書き(風)のアニメーションなんですよね。リアルさを追求するのも大事なんですが、たとえば「リロ&スティッチ」のような水彩画による背景をみると、ああ、これこそ映画だ!と思ってしまうのは、たんなるノスタルジーだけなんでしょうか。

個人的にも、ディズニーが手書きアニメーションから離れていっているという事実は感じ取ることが出来ますし、これには悲しいものがあります。ただ、当のアニメータであるゴールドバーグ氏のように同じことを思っていることがわかったのは非常にうれしいことです。おそらくコストの問題からも3DCG化の波は間違いなく進むと思います。ただ、ディズニーがそれを放棄するのなら、きっとそこに新しいフィルムメーカーが登場するはずです。ニーズは間違いなくあるのですから。そのとき、第2のウォルト・ディズニーが現れるのかもしれません。

では!
(kyokucho/宮田 健)

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