kyokucho/宮田健の気分はブルースカイ:第24回 ディズニーを殺すのは誰か?

気分はブルースカイ

こんにちは、kyokuchoです。先週はディズニー関連で大きなニュースが2つ飛びこんできました。1つは創業者ウォルト・ディズニーの甥である副会長のロイ・E・ディズニーが会長のマイケル・アイズナーに対し辞表をたたきつけ、「辞めるべきなのは私だけではない」と会長に経営責任を追求するという、ディズニー社で内紛が発生したというセンセーショナルなニュース。もう1つは東京ディズニーランドの老舗アトラクションであるスペース・マウンテンで脱線事故が発生、先日のロスでのビッグサンダー・マウンテンの死傷事故を思い出させるような、これまた衝撃的なニュースが報道され、図らずも注目の1週間になってしまいました。今回は、そのウォルト・ディズニー社の内紛について思ったことを。

もともとディズニー社の会長、アイズナー氏が現職につくまでに、いろいろな裏話があるようで、アイズナー以前のディズニー(企業としてのディズニーの暗黒時代です)では親ロイ派(このロイはウォルトの兄のこと)と親ウォルト派の派閥抗争が激化していて、実はロイ・E・ディズニーが推したCEOこそが現会長のマイケル・アイズナー氏でした。ロイ氏が一番気にしていたのは、当時完全に成長が止まってしまったディズニー社が、部門ごとに切り売りされることだけは避けなければいけないと言うことでした。ディズニーのビジネスは映画をヒットさせ、そのキャラクターを使ったマーチャンタイズビジネスをたち上げ、さらにそれをテーマパークで展開することにあり、その部門を切り刻まれてしまうとビジネスの輪がとぎれてしまうからです。そして無事会長に就任したアイズナー氏に対して、ロイ氏はディズニー社のほぼすべてを託しますが、唯一出した注文が、「長編映画部門を私にやらせてくれ」ということでした。

アイズナー氏が会長職に就任した後、ディズニーは「美女と野獣」や「ライオン・キング」の成功、ブロードウェイへの進出、そしてABC放送の買収など輝かしい功績を残しますが、新テーマパーク「ディズニーズ・アメリカ」の断念、また「ユーロ・ディズニー」の失敗なども少なくありません。また、長編映画部門ではロイ・ディズニーが指揮をとった、近年におけるディズニー最大の冒険作「ファンタジア/2000」を完成させます。

ところが、今回のような悲劇が訪れます。どうやら今回の火種はロイ氏の年齢による定年ルールで取締役から解任されてしまったことが発端になっているようです。ロイ氏曰く、「テーマパークビジネスを軽視し、パリの第2テーマパークや香港進出を安上がりに行いすぎた」こと、また「ABC放送の低迷は不本意な番組編成が原因だ」ということを理由にあげ、アイズナー氏にも退任を迫っています。ところが、市場はこの「事件」をどう判断したかというと、今後の経営にはほとんど影響がないという見方をしているようです。

この点を冷静に考えると、ディズニーという会社は過去の資産が豊富に存在していて、それをものすごく大事にする人たち(つまり、創業者の親族)と、革新を進めることを考える人たち(創業者親族以外の新しい人)のどちらを重要視するか、という点を市場はみたのではないかと思いました。もちろん、ロイ氏が保守派でアイズナー氏が革新派だとは私は思っていませんが、こういう判断がなされているのでしょう。結果としてはディズニー長編で革新的ななにかが登場しているとも思えませんし。

ただ、本当に心配なのは、世界でも屈指のビジョナリー・カンパニーであるディズニーのビジョンが全く見えない点です。アイズナーの行ったことでさえも、すべて「過去の資産」を「ブロードウェイという舞台」や「新しい場所」という外装をつけ、見栄えがいいように加工しただけで、本当に革新的なことは何一つやっていないのです(これは、ロイ氏も同様)。ビジョナリーカンパニーにビジョナリーが存在しないことほど、恐ろしいことはありません。

私が知るもう一つのビジョナリー・カンパニーであるApple社は、創業者であるスティーブ・ジョブスが復帰した後、革新的なことを今も行い続け、PC業界では数少ない利益のでる会社になっています。彼が行ったのは、過去の資産をバッサリと切り捨て、革新的なもの(MacOS XだったりiPodだったり)を提供しました。このような思い切りが出来る人材こそ今のディズニーには必要なのだと強く思います。おもしろいことに、ロイ氏が抜けたことによりあいた取締役のポストに、スティーブ・ジョブス氏の名前があがっているという噂もあります。これが実現したら本当におもしろいんですけどね。

では!
(kyokucho/宮田 健)

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