《今だから明かせる秘密》PowerBook 2400cとNUpowr G3 for 2400の開発秘話 第4話

PowerBook 2400とNUpower G3

Macworld東京にあわせての来日

1998年2月に開かれたMacworld東京。Newerの社長、副社長、そして自分の3名がそこに参加することとなりました。この年は代理店であるメディア・ビジョンとアークポイントがブースを出しており、そのブースの一部にNewerの製品を展示しました。

しかし今回の一番の来日目的は日本IBMとの最終打ち合わせです。
 

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支払い方法が折り合わない

Macworld東京の前日、日本IBMの大和事業所に3人でお伺いし午前中から打ち合わせとなりました。

Macworldサンフランシスコでお話をしたエンジニアの方や日本IBMのNewerに来社くださったマネージャーのお二方をはじめて、会計部門や製造部門などの責任者の方々10名以上にもおよぶ大きな話会いになったのです。

提出頂いた見積書によると、コストはほぼNewerの予想通りで全く問題ありませんでした。しかし1点だけどうしてもNewerが受け入れることができない内容がありました。

それは支払い方法でした。

日本IBMは製造コストの半分を前金で、残りを製品引き渡し時に支払いを要求して来ました。Newerがいつも製造をお願いしている米国のメーカーであれば、ツケがきくので製造後に製品を販売した代金で製造コストを支払うことが出来ます。

しかし日本IBMでは支払いが滞るかもしれない米国の小さな会社にツケで製品を製造するわけにはいかないというのが、会計グループの判断だったようです。初めての取引ですし、ごもっともな判断だと思います。
 

G3カードの製造には大金が必要

正確な製造コストは覚えていないのですが、PowerBook 2400c用のG3カードは500ドル前後であったと思います。計算しやすいようにコストを500ドル、$1=100円として、一度に1000枚生産すると5000万円の費用が必要ということになります。

それがCPUの速度が異なる2モデルを作れば1億円、3モデルであれば1.5億円が必要となります。また同時期にPowerBook 1400のG3カードも一緒に日本IBMにて製造をしたいという申し出があり、それも入れると2億円、3億円というお金が現金で必要ということになります。

Newerはそんなキャッシュフローが潤沢でありませんでしたから、支払いの猶予が1ヶ月〜3ヶ月どうしても必要なのでした。さすがに前金とCODでは日本IBMでの製造を諦めないといけません。
 

この時点でNewerは日本IBMをあきらめ、ツケが効く米国のメーカーで製造するという選択肢がありました。

しかしそのためには、基盤の再設計をしなおさなくてはいけません。日本IBMの基盤の製造技術は高度であるため、他社で同じデザインの基盤を製造することが出来ないのです。

そして再設計には時間がかかります。G3カードは”なまもの”のようなもので、人気があるときに製造販売しないとすぐに腐ってしまいます。

アップルが新しいPowerBook G3をリリースすれば、多くのユーザーはそちらに流れてしまいます。また、ライバル会社である日本のインターウエア社で同一カードが近い将来販売されるといううわさもあります。よって製造は時間との勝負。

なのでNewerでは商品化まで最短の方法、つまり日本IBMでの製造を選択せざるをえなかったのです。よって、どうにかして支払いををやりくりする必要がありました。

Newerに戻って会計部門と相談が必要ということで、その日の最終判断はお預けということになりました。社長も自分も最終合意に至らず、がっかりしながら日本IBMを後にしました。
 

米国IBMの代理店に仲介してもらうことに

後日、支払いの件はNewerの会計部門と日本IBMの会計部門で交渉に交渉を重ねた結果、CPUやバックサイドキャッシュなど高価な主要なパーツは、Newerのツケが効く米国IBMの代理店で購入して日本に送り、製造代金だけ製品納入時に支払うということで合意に至りました。

そしてキャッシュフロー限度分、PB2400c用G3カードを3000本、PB1400用を5000本を日本IBMに4月に発注したのでした。納期は3ヶ月後の7月。日本IBMであれば間違いなく納期通りに仕上がってきますから安心して待っていられます。

これでPB2400cユーザーをたくさんかかえた日本担当者として、ほっとしたのでした。

Macworld東京でのG3で動作するPB2400cを展示する

さて話を戻して、Macworld東京です。この展示会でのNewerの目玉はG3で動作するPowerBook 2400cをユーザーに実際に見てもらうことでした。

しかし、展示する予定だった2400c用G3カード・NUpowr 2400は開発が終わらず、展示用のプロトタイプは間に合いませんでした。日本ならエンジニアが徹夜でもして仕上げる感じですが、米国ではそうはなりません。間に合わないものは間に合わないというスタンスです。

しかし営業戦略的にこの東京でのMacworldは大変重要で、PowerBook 2400cユーザーが多い日本で、近い将来NewerがG3カードを発売するということをアピールする絶好の機会なのでした。

米国の会社では近日発売が3ヶ月後に延期になり、半年後になり、1年後になり、結局販売されないなんていう”出す出す詐欺”みたいなことがよくありますから、Newerもそう思われないように実際に動作するG3カードを見せる必要があったのでした。

そこで、日本IBMのエンジニアの方に無理を承知で、G3カードが動作する特別なROMが搭載されたPowerBook 2400本体をなんとかお借り出来ないかお願いしてみました。営業戦略的にどうしても必要であることをアピールして、誠心誠意頼みました。

日本IBMとしてもNewerのG3カードが製造出来なかったら困ると考えたのでしょう。特別なPB2400cをお貸しいただけることになりました。

ただし、このPowerBookは特殊なROMが載ったものであり、アップルが日本IBMのG3カード開発用途のためだけに使用を許可したものです。よって、これが他社に貸し出されているなんてことがばれたら訴訟問題なってしまうので、取り扱いにはくれぐれも気をつけて下さい。

と強く念を押されました。

しかし、このPowerBookの展示で、自分は大失態を犯してしまうことになります。

続きは第5話へ...

 
 
 

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