kyokucho/宮田健の気分はブルースカイ:第62回 ディズニーアニメーション、時代の流れ

気分はブルースカイ

こんにちは、kyokuchoです。

ディズニーにとって衝撃的なニュースがいくつか入ってきました。初期の長編作品で活躍した伝説的なアニメータの一人、フランク・トーマス氏が逝去されました。初期ディズニー・アニメーションにおいてスタイルを確立し、ウォルトが尊敬の念を込めて名付けた「ナイン・オールドメン」の一人として数えられたフランク・トーマス氏、その名前は知らなくても「わんわん物語」で一番有名な、レディとトランプが1つのスパゲッティを食べる「ベラ・ノッテ」のシーンや、悪役ながらコミカルな動きで作品にインパクトを与えた「ピーター・パン」のキャプテン・フックなど、彼の創り出したキャラクターを知らぬ人はいないでしょう。また、前回取り上げたファイアーハウス・ファイブ・プラス・トゥーというジャズバンドではピアノを担当していていました。彼は後進を育てることにも力を入れており、親友オリー・ジョンストンとの共著「ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 – The Illusion of Life –」という本はアニメータの教科書として長年読まれている本となっているそうです。私も思わずこの本を買ってみましたが、普段何気なく流してみていたディズニー映画の1シーンに、恐ろしいほどのテクニックと思いが込められていることがよくわかる本でした。アニメーションというものはそのものを写すのではなく、動きの特徴を研究し、それを強調する・・・アニメーションの世界を志そうとしている人はこの本をしっかり読むことをおすすめします。彼の功績と心意気は今も大きな資産としてこの世界に残っています。こころよりご冥福をお祈りします。

そしてもう一つ、彼の訃報の翌日にまた大きなニュースが飛び込んできました。現Walt Disney CompanyのCEO、マイケル・アイズナー氏が現在の契約期間満了を持ってCEO職を辞するというコメントが出てきたのです。アイズナー氏といえば、ディズニーファンからはかなりの確率で嫌われてしまっている経営者。なぜかというと、ここ最近の彼のジャッジが過去の伝統をないがしろにしてしまっているように見えるからです。創業者の甥ロイ・ディズニーのバックアップにより彼が就任したのは1984年、そしてそれはまさにディズニーがどん底にいた時代で、この状態からリトル・マーメイドや美女と野獣などの成功による「ディズニー・ルネッサンス」をもたらした功績は紛れもなくアイズナー体制のたまものではありますが、その後自分をディズニー社に招き入れたロイを追い出すこととなり、さらに長編アニメーションを3DCGで制作する意向を発表、各地にあったスタジオを次々と閉鎖するなど、周りからみると迷走ともとれるようなジャッジを行ってきています。

先日、私の元にアメリカのamazon.comから、ディズニー最後の2D長編アニメーションとされている作品「Home On The Range」のDVDが届きました。アイズナー体制では、次の作品「Chicken Little」、そして日本でもまもなく発売される「ポップアップ ミッキー / すてきなクリスマス」など、すでに3DCGでの制作をベースとしているのですが、このHome On The Rangeの画風は昔ながらのカリカチュアを全面に取り入れたようなもので、静止画でみてしまうと過去の「ムーラン」や「ポカホンタス」、そして「リロ&スティッチ」のように敬遠してしまう人が多いかもしれませんが、実際にみてみるとなんと動作の表情が豊かなことか。そしてそれと対比するようにこのDVDに収録されていた「ポップアップ・ミッキー」という3DCG作品の画風が、よりリアルになって、実際の人間等の動きに近いのではありますが、アニメーション特有の「特徴をつかんで、それを強調する」というのがおろそかになっているということがわかってしまい、見ていて実におもしろくないのです。確かにそこにいるのは今まで見慣れたミッキーやドナルドの形をしているものなのですが、大きな違和感を感じるのは私だけではないはずです。いわば、自らが「偽物」をつくり出しているかのように。

フランク・トーマスは先の本にて、一番最初にこんなことを書いていました。ディズニー自身が今忘れていることを一言で言っているようで心に残ります。最後にそれを引用して終わることにしましょう。

「ほかのどんなスタジオも、私たちの作品の中にあるこの最も重要な(だがほとんど理解されていない)要素を今に至るまでまねることができずにいる。それはお金だけでは生み出せない。『ディズニー・タイプ』の作品を作ってみせるというプロデューサは、きれいな色を使い、莫大な費用をかけさえすればよいと考えているかもしれない。だが、ディズニー・アニメーションは、描く、あるいはアニメートする、あるいはストーリーを語る、あるいは彩色するなどということ以上の何もかもなのだ。この本のテーマはそこにある。」

では!

(kyokucho/宮田 健)

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