遠藤です。みなさんこんにちは。
暦の上では夏も終わり、秋の日々となりました。しかし、東京ではまだ、気温も湿度も高い日が続いています。
近所の水田を見に行ってみると、強い日の光を浴びて稲穂の頭が下がり、果実が実りつつあるのを観察することができ、秋の訪れを感じさせる光景が広がっていました。
用水路の両側に広がる一面の水田を見ていると時より明らかにイネではない植物が生えているのに気がつきました。
この植物はイヌビエというイネと同じグループの植物です。
イヌビエは花序(花序:花の集まり)以外は大変よく似ています。
近くで見るとこのようなイネによく似た姿をしており
葉は、さらに似ています。
(写真の上側がイネ、下側がイヌビエです。)
しかし、一面に広がる田んぼをくまなく見ても、イネと一緒に生えているのはイヌビエだけです。
イネの仲間の植物は日本に320種もあるのに、水田にはどうしてイヌビエだけしか生えていないのでしょうか?
きっと、シルエットが似ているだけでは生きていけない何らかの「ひみつ」があるはずです。
そこで、イヌビエとイネの生活史を図にしてみました。
この図で、イヌビエはイネの田植えよりも遅く発芽して、刈り取りよりも早く種子を熟し、種子を落とすいうことがわかります。
このことは大変重要な意味を持つことがわかります。
もしも、イヌビエが田植えよりも早く芽を出したら、代掻きなどの田植えの準備のために畑にスキ混まれてしまい死んでしまうでしょうし、もしも、稲の刈り入れよりも後に種子が熟す植物であれば自分の種子が熟さない前に刈り取られてしまい、子孫を残すことができません。
このように、
- イネによく似たシルエットを持つこと
- 田植えよりも後で発芽すること
- イネよりも早く種子を付けること
この3つの条件がすべてそろった植物だけが、水田雑草としてイネとともに生きてゆくことができるのです。植物がわざわざこのために進化したわけではありませんが、イヌビエの生存戦略には驚かされることばかりです。
イネと、イヌビエは穂が出るまで本当に区別がつかないのかというと、実はよく見るとちゃんと区別がつきます。
どこを見ると区別できるかというと、「葉舌」という葉と茎の間にある器官があるかないかを調べれば一目瞭然です。
イネには、
矢印のような葉舌があるのに対して
イヌビエには
葉舌がありません。
しかし、農家の方が広い面積の水田のイネを一本一本見て回って引き抜くことは不可能ですのでイヌビエにとってはこの程度の違いは気にするほどのものではないのでしょう。
イヌビエのような戦略は植物ばかりではありません。
ヒバリは小麦畑に巣を作ることが多いのですが、小麦が青々と生長した4月頃に巣を作り、小麦の刈り取りをする直前、6月頃に巣立ちを迎えます。
このように、人間の作り出す農業のサイクルに巧みに合わせて生きる生物がいることがわかりました。
日本で多くの面積を占める水田や畑では私のご紹介した2種以外にも多くの生物が農作物とともに、したたかに生きていると思われます。皆さんもそうした生物を探してみて下さい。