G3カードとMac ROM
日本IBMとの仕事の話の前にG3カードについて説明をさせてください。
MacでG3カードを正常に動作させるには大きくわけて2つの物理的な設計が必要です。
- G3カードとしての基本設計
- MacのROMを回避させるための設計
それぞれを簡単に説明をしていきます。
G3カードとしての基本設計
PowerPC 603用につくられたドーターカードの物理的なサイズに、CPUであるG3とバックサイドキャッシュを搭載し、PowerBook 2400cに装着して正常に動作するように設計する必要があります。物理的な制約を考慮し、かつCPUやバックサイドキャッシュの放熱を行う必要があります。ただ、これは基本的な回路はPowerPC 603と同じですので、それほど難しいことはありません。
MacのROMを回避するための設計
Macは電源ボタンが押されると簡易のハードウエアテストを行います。CPU、メモリー、液晶モニター、キーボード等々Macに装着されているハードウエアが正常であるか確認をします。
そして全て正常であることを確認した後に”ジャーン”という起動音を鳴らしています。一方で、正常でないと判断した場合は”プープープー”というようなエラー音を発します。
PowerBook 2400cのMac ROMの場合、まず最初にCPUがPowerPC 603であるかを確認するわけなので、G3カードが搭載されていれば異常とみなして起動してくれません。
つまりMac ROMに対して、G3カードにも関わらず、あたかもPowerPC 603であるようなフリをしないといけない(つまりROMをだます)わけです。
当然アップルはROMの内容について公開していませんから、ROMがどのようなタイミングでどうやってCPUを確認しているのかを探らないといけません。Newerはこの探ることに関するノウハウを持っていたのです。
日本IBM製のG3カードを参考にNewer製G3カードのデバグ
Macworldサンフランシスコが終了し、カンザス州ウィチタの本社に戻ったCTOのダリルは、早速日本IBM製G3カードの評価にとりかかりました。
上記で説明したように、日本IBMのG3カードの基本デザインは完璧なはずです。だってPowerBook 2400cを知り尽くしたエンジニアが設計しているのですから完璧でないほうが不思議です。
実は1997年末までにNewerのG3カードの基本デザインは初期の段階は終わっていたのですが、回路にバグがあり一部動作に問題がありました。そこで、日本IBMから貸してもらったG3カードを参考にデバグを行うことが出来ました。そのためNewerはデバグ工程の期間をかなり短縮することが出来ました。これには本当に助かりました。
日本IBMのG3カードだけでは動作しない
一方で、日本IBMのG3カードであっても、市販のPowerBook 2400cに装着するだけでは動作しません。上で説明したようにMacのROMをだます必要があるのですが、そのノウハウは日本IBMにはないからです。
日本IBMはPowerBook 2400cが将来G3カードを搭載することが可能であることをアップルに説明し、PowerBook 2400cの中でG3カードが動作する特別なROMをアップルに作ってもらっていました。そのROMが搭載されている特殊なPowerBook 2400cであればG3カードは動作しました。
しかし開発しているG3カードの目的は、すでに発売されているPowerBook 2400cに取り付けて正常に認識し、動作することです。つまり、その特殊なMac ROMを使わずに既存のMac ROMで起動させることがNewerのエンジニアに求められていたわけです。
日本IBMのマネージャーがNewerへ
さて、Macworldサンフランシスコからわずか2日後、PowerBook 2400cグループのリーダーお二人が、はるばる日本からNewerの本社に来てくださいました。
一人は開発責任者の方、もうひとりは製造責任者の方でした。到着早々、Newerの技術部門のトップであるCTOのダリルとロジャーと技術的な打ち合わせとなりました。
この時の日本IBMのお二方のプレゼンでは、日本IBMでG3カードを製造するメリットについて語られました。
技術的なメリットは...
- 日本IBMで開発のお手伝いが出来る→納期短縮
- 基盤を5レイヤーでの配線処理が可能→設計に余裕が出る
製造上のメリットは...
- G3チップを優先的に調達出来る→安定供給
- 品質は世界トップクラス+納期は厳守
というようなことを熱く語られました。NewerとしてもPowerBook 2400cを一番知っているチームと仕事が出来るというのは願ったりかなったりでした。
最大の関心事は製造コスト
この後、社長のジェームスと副社長のジェフも加わった打ち合わせとなり、コスト、納期、保証などについての話となりました。
その中でも一番の関心事は製造コストがどれくらいなのかということでした。どんなに優れた製品であっても、製造コストが高ければ販売価格も高くなり販売数量に影響してしまいます。
この価格については、日本に戻って正確な見積もりを出すということで、お互い前向きに検討する旨を確認しました。
そして、翌月2月にはMacworld東京が開催されます。Newerは代理店を通してブースを出すので、その機会に社長のジェームスと副社長のジェフと私で日本IBMを訪れて、最終的な詰めの話をするということで、この日の打ち合わせが終了となりました。
おまけ
日本IBMの方々はヒルトンホテルに泊まることが多かったです。なぜかを伺ったら、IBM全体がヒルトンと契約をしているため社員証を提示するだけでかなりの割引をしてもらえるということでした。
Newerにお客様がいらっしゃると、接待として夕食をともにします。その時はウィチタで一番有名なステーキハウスで、巨大なカンザスビーフのステーキをお出しすることが恒例でした。