俗説を経済学的・統計学的に解説する
「ヤバい経済学」は自分の好きな本の1つです。
経済学というと株式市場とか景気変動とか硬そうな話を想像しますが、この本はもっと日常的なことをテーマにしています。
そのテーマは「人はインセンティブで動く」ということです。
著者のスティーヴン・D・レヴィットはシカゴ大学の教授でありながら、研究対象がすごく俗っぽいわけです。ドラッグディーラー、KKK、犯罪者、売春婦などなど。かたぎの人があまり近づかないような人たちを相手にして統計データをもとに、彼らの実情は一般社会とほとんど同じような経済活動をしているということを説明していきます。
その中で日本人を一番驚かせたのが、相撲の八百長問題でした。
大相撲の千秋楽7勝7敗力士の勝率の不思議
レヴィット教授は米紙ワシントン・ポストで相撲の八百長に関するコラムを読んだのをきっかけにこのテーマに感心を持ち、相撲通なら誰もが気づいていた暗黙の了解「千秋楽7勝7敗力士の勝率」についてデータ分析を行いました。
大相撲の勝敗のルールについて知らない方に簡単に説明すると、相撲力士は年間6場所(リーグ戦)があり、1場所で15回の取り組み(試合)があります。1場所中8勝以上を勝ち越し、7勝以下を負け越しといい、勝ち越せば翌場所で番付(ランク)が上がり、負け越すと番付が下がります。力士は勝ち越すことが一番のインセンティブとなります。
本書によると、千秋楽(場所の最終日)7勝7敗の力士のデータは以下の通りです。
- 7勝7敗の力士が8勝6敗の力士に勝つ期待値:48.7% 実際の値:79.6%
- 7勝7敗の力士が9勝5敗の力士に勝つ期待値:47.2% 実際の値:73.4%
これを見ると、すでに勝ち越しをしている力士が手を抜いてあげている(ある意味八百長)可能性が高いわけです。
しかし、7勝7敗力士はあと1勝をあげるためいつも以上に「必死」に取組みをした結果、勝率が高いのだと力士が反論することが可能です。確かに否定できません。
そこで、レヴィット教授は別のデータをとりました。
今場所で7勝7敗の力士が8勝6敗の力士に勝った場合、次の場所で同じ相手と取り組みを行った時にどのような勝率になったかです。
で、結果はというと...およそ40%でした。
今場所は80%近い勝率だった力士が、次場所の再戦ではわずか40%に激減しました。
彼はさらにデータを調べ、その次の再戦では勝率がほぼ50%に戻ることも確認しています。
このことから、8勝6敗ですでに勝ち越しをしている力士が7勝7敗の力士を勝ち越しさせてあげると、再戦では相手が負けてくれるというような(暗黙の了解なのか、事前に打ち合わせをしているかは不明ながら)星の貸し借りが発生している可能性が高いということがわかったわけです。
千秋楽の八百長報道に対する反応
この件、朝日新聞でも大きく取り上げられました。
本書のデータで、さすがの相撲協会はグーの音もでなくなりました。
このニュースが発表された後の場所では7勝7敗の力士の8勝6敗の力士に対する勝率はいつもの80%ではなく、約50%に下落したとのこと(苦笑)。
これに対して相撲通の人はこれは八百長ではなく、日本人伝統の「助け合い」「互助の精神」とおっしゃっています。うーん、納得できるような、納得できないような(苦笑)。
いづれにしても「ヤバい経済学」この手の話がたくさん出てきますので十分に面白いんです。よろしければ読んでみてください。