ハイエンドモデルの存在意義
昨日AirPods Proというハイエンドモデルの存在と価格が、ミドルエンド・ローエンドモデルの成長を促すという話を書きました。
このハイエンド戦略はどの業界でも行われていることですが、実際に自分がそれを肌で感じたことがありました。それは1988年、バスケットボールシューズ業界でナイキがトップブランドに躍り出た出来事です。
ナイキのバスケットボールと言えば、最近では八村塁選手が契約したエアジョーダンも1つのブランドを確立しました。エアジョーダンは1984年にエア・ジョーダン1をリリースしますが、メジャーになったのはナイキ同様、1988年からだと言っても良いでしょう。
1980年代のバスケットボールシューズ業界
この1980年代前半、バスケットボールシューズ業界はアディダス・コンバース・ナイキの3メーカーが競っていました。
アディダス
1970年代バスケットボールシューズ市場ほぼ独占していたアディダスはスパースターというモデルが有名で、Lakersのカリーム・アブドゥル・ジャバーと契約をしていました。
1970年代はマーケットシェアトップでしたが、1980年代になりナイキ・コンバースに抜かれます。
コンバース
アディダスやナイキよりも後発のコンバースは、1986年にウエポンというシューズをリリースします。マジック・ジョンソンやラリー・バードをはじめ多くの有名選手と契約をしこのシューズを大々的にプロモーションしました。その結果マーケットシェアトップに躍り出ます。
ナイキ
コンバースにマーケットシェアを大きく奪われたナイキは、1988年にエポックメイキングなシューズを発表します。それがナイキ・レボリューションでした。
特徴は
- クッション性
ナイキはこれまでエアという空気を注入したクッションをかかとに用いていましたが、このレボリューションでは靴全体に広げてクッション性を高めました。
- エアを強調したデザイン
エアが横から見えるようにソールの一部に窓のような穴を設けました。
- 軽量化
既存のバスケットボールシューズはゴムの厚底でかなり重たかったのですが、このレボリューションは靴底にウレタン?素材を使って軽くしました。
そして驚くべきはその価格。平均的なバスケットボールシューズの価格が50ドル前後だった当時、レボリューションは150ドルしました。
当時一番高価なコンバースのハイエンドモデルのウエポンが80ドルぐらいでしたから、価格は約2倍。バスケットボールシューズの価格が一気に上がった瞬間でした。
そしてナイキはレボリューションと同時にその廉価版モデル・アッサルトをリリースしました。その価格は約80ドル。
レボリューションを買えない層がアッサルトなら手が出ると判断した結果、アッサルトはバカ売れしました。コンバースのハイエンドモデルであるウエポンとほぼ同じ価格にもかかわらずです。自分の友人たちもみなアッサルトを履いていました(苦笑)。
この後ナイキは一気にバスケットボールシューズのマーケットシェアを奪い返し、その後現在にいたるまで一度も他社にトップの座を許していません。
おまけ
ちなみに、現在ナイキから長距離用のハイエンドモデルとして《ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%》が発売されています。マラソン日本記録をもつ大迫選手が履いているモデルです。価格は3万円強となっています。
その廉価版《ナイキ ズーム フライ 3》は1万8000円弱となっています。
たぶん1989年のバスケットボールシューズと同じように、ハイエンドモデルの価格のおかげで、廉価版がかなり売れているのではないかと想像しています。