映像付き短編小説
自分は新海監督作品は「映像付き短編小説」だと思っています。
小説にはいろいろな種類がありますが、主人公の代わり映えのしない日常を描写しただけの小説ってありますよね。そんな感じです。
日常はそんなもの
日常って、大きなパプニングがあるわけでもないし、仮にハプニングが起きたとしてもそれが素敵な結果になるとも限らないわけです。
強いて映画で言うならば、是枝裕和監督作品が似ているかなと。彼の作品もオチがなく、その後どうなるのだろうか?という余韻をもたせた終わりかたが多いように思います。
ただ、それは映画としてだめだろうと多くの観客が文句を言うわけです。
多くの観客はしっかりしたストーリーとオチのある映画を観たいわけで、主人公の代わり映えのしない日常を観たいわけではないわけですから。
でも、その日常こそがリアリティーという感じが自分はしています。出来すぎた話って逆に白けてしまいますから。
言の葉の庭にみる価値観
「君の名は」はストーリーがしっかりしていてオチも素晴らしかったと思います。
だから、そこで新海監督のファンになった人は「君の名は」的なストーリーを求めてしまうのはわかります。
でも、その前の「言の葉の庭」では、淡々とした日常が描かれていました。二人の出会いやエンディングのハグシーンは感動的ですがそれで何も解決はしていません。ユキノ先生は学校をやめて四国に戻ってしまうし、孝雄は靴職人になれるのかどうかもわかりません。
気持ちが良いラストとしては、ユキノは再び学校に戻っていじめにあった生徒に立ち向かっていじめを克服し、孝雄は靴職人のためにイタリア留学が決まる、みたいなものかもしれません。でもそれだと逆にしらけてしまいます。
そう簡単には報われない世界こそがリアルであるというのが、新海監督の価値観だと思います。
英語タイトル”Weathering with You”の意味
英語タイトルはWeather Girlとかにしても良さそうなものの、あえてWeathering with Youとしているところが新海監督らしいおしゃれなところ。
Weatheringという単語は「嵐を乗り切る」みたいな意味から派生して「試練を乗り越える」というニュアンスがあるらしい。つまり、Weathering with Youは「君と一緒にがんばる」的な意味なのかなと思います。
これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語
とキャッチコピーにあるように、この映画は「僕と彼女の物語」であって、その物語の設定がへんでも、大人がどうだろうと、オチがなくても、東京がどうなっても、外野があれこれ言う必要はないのだと思います。
自分的には君の名よりも新海監督の作家感が出ていてよかったと思っています。
4K版のBlu-ray
DVDやBlu-rayと一緒に4K版Blu-rayも販売されているのですね。
新海監督作品なので4Kで観る価値がありますね。精細に描かれた雲や雨や光をじっくり観たいという方にはうってつけだと思います。価格もそれなりにしますけれど(苦笑)。